札幌地方裁判所小樽支部 昭和33年(わ)125号 判決 1958年12月15日
被告人 甲
主文
被告人を懲役二年以上四年以下に処する。
未決勾留日数中一〇〇日を右本刑に算入する。
押収にかかる刃物一丁(昭和三三年領第三二号の一)はこれを没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、二〇才未満の少年であるが昭和三三年六月二八日午前一時頃、故なく蛇田郡倶知安町北一条西一丁目一番地山田ツネ方屋内え入つたところ奥六畳間に就寝中の同女に発見されたので、逮捕を免れるため臥床中の同女にふとんの上から覆いかぶさり手で同女の口を塞ぎ、更に携帯していた俗に「タンバ」と称する刃物(昭和三三年領第三二号の一)を同女の腕にこすりつける等の暴行を加え、更に同家二階に就寝中の同女の実弟山田友一が同女の救を求める声を聞いて同所に馳せつけたところ、やにわに右刃物をもつて同人を突刺し、因て同人の右上腹部に長さ約八糎、腹腔に達する切創、右前胸部に右乳線上第五肋骨及び第六肋間に各々長さ三糧、深さ肋膜に達する切創、左上腕外側部に長さ約四糎及び約三糎、深さ筋膜に至る切創、左前腕部に長さ約四糎及び約二糎深さ筋膜に至る切創等全治までに約三月を要する傷害を与えたものである。(住居侵入の点は訴因に含まれていない。)
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
被告人の判示所為中暴行の点は刑法第二〇八条、罰金等臨時措置法第二条、第三条に、傷害の点は刑法第二〇四条、罰金等臨時措置法第二条、第三条に各該当するが、各所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるので同法第四七条、第一〇条により重い傷害罪の刑について併合加重した刑期の範囲内で処断すべきところ、被告人は二〇歳未満の少年であるから少年法第五二条第一項本文により被告人を懲役二年以上四年以下に処し、刑法第二一条により未決勾留日数中一〇〇日を右本刑に算入し、押収にかかる刄物(昭和三三年領第三二号の一)は本件犯行に供した物で被告人以外の者の所有に属さないので同法第一九条第一項二号、第二項によりこれを没収することとし、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項但書により被告人にこれを負担させない。
(強盗致傷の訴因を判示の如く認定した理由)
本件訴因の要旨は、被告人は窃盗の目的で本件家屋に侵入し、金品を物色中被害者等に発見され、その逮捕を免れるため同人等に暴行を加え本件傷害を与えたというにある。
証拠を案ずるに被告人は本件家屋に侵入した目的が窃盗にあつたと終始一貫して供述しているが他にこれを裏づける確実な証拠もないのみならず被害者の一人である山田ツネの証言によると被告人の目的はむしろ婦女を姦淫するか又はわいせつ行為をすることではなかつたかという疑惑も濃厚であり被告人の目的を本件訴因の如く断定することは些か困難であるといわねばならない。然し仮に検察官の主張のように被告人の右目的が窃盗にあつたとしても、被告人及び証人山田ツネの供述によれば、被告人の窃取の目的であつたという菓子類は同家表店舖に陳列されており被告人は裏の縁側から戸を開けて屋内に入つたのであるがそこから店舖へ到るにはその中間に八畳の間があり店舖との境界はカーテンで仕切られていること、被告人はまづ表店舗内に入る前に家人がいるかどうかを確めるため、八畳間の隣の六畳の間え入つたところ、山田ツネに発見され本件犯行に及んだものであること、被告人は表店舖内には全然入つておらず、右八畳においてもせいぜい表の店舖内の菓子類が眼に入つた程度以上の行為には出ていないことが認められる。窃盗行為について実行の着手が有りとするには少くとも物に対する他人の事実上の支配を侵すについて密接な行為をなすことを要するものと解すべきところ、被告人の右行為がそのような意味における実行の着手に該当するとは到底考えられない。従つて、窃盗の実行の着手があつたことを前提とする強盗傷人の本件訴因はこれを認めることはできない。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 山田近之助 菅間英男 片山邦宏)